おがわや すしきん新連載

ガーナの思い出
むかしこんなことしてました。


おがわや すしきん
の店主、大垣 文護(おおがき ぶんご)は,
前頁で述べましたようにかれこれ14年前、大使公邸料理人という肩書きで、
西アフリカのガーナ共和国という国に滞在していました。
今からそのときのお話を少しづつですが、このページでさせていただこうと思います。


第3話

ガーナへ出発
チューリッヒまで

 なにから何まで、すべて初めての事ばかり、飛行機も半ば乗り方も分からない田舎者がいきなり国際線にデビューする。おまけに贅沢にもビジネスクラス。当の本人はもうすっかりYoung Executive(笑)。ドキドキだった事を今でも憶えています。

 さて、機内に入り着座して一番最初に思ったことは、『果たしてこの中(同じ位置)で10時間余も我慢できるのであろうか・・・?!。』ということでした。何故、そんなことを思ったのか・・・。それは多分、生まれてこの方、睡眠以外は同じ位置で起きたままじっとしていたことが無かったからなのでしょう・・・。でも、そんな心配はすぐに飛んでいきました。あのCクラスのシートに着座してすぐWelcome DrinkのCHAMPAGNEが離陸前にサーブされるや否や、私の緊張を一気にほぐしてくれました。そして、あの離陸にかかる飛行機特有のG体験。あっという間のTAKEOFF。もう一気に、赴任地ガーナのアクラまで、一人のおのぼりさんの状態に入ってしまいました。
 
 離陸してまもなく、機内から富士山が見えました。もうほんと、ちぴっとにしか見えないのですが、それを見たとき『あぁ、当分帰ってこれないなぁ・・・。これも見納めやね。』なんてジーンと目頭が熱くなったのでした。『そんな富士山に縁もない丹波の人間なのに、この気持ちは何故起こるんだろう???。何でだろ?!。』不思議に思いました。他の海外赴任者もこういう状況に出くわしたとき、同じ気持ちになるのだろうか・・・?!。日本のビールを飲みながら、アレコレいろんな思いを駆け巡り、飛行機は少しずつ日本から離れていくのでした。

 2時間程でしょうか機内での食事も終わり、飛行機は日本海を抜けソ連領に入りました。シベリア大陸横断です。出発時は晴れだった天気も、日本を離れていくにつれ、飛行機は厚い雲に覆われ上を飛んでいるのでした。時折、雲の合間から見せる陸地も、12月のせいでしょうか薄暗い、寒そうな景色に見えました。『この下にはいったいどんな人が暮らしているんだろう?!。』『この下、外国ねんなぁ・・・。』『大丈夫やろか、俺・・・。』離陸後のウキウキ気分の消えた、初めて味わった孤独でした。
 機内の映画も、面白くなかったのか憶えていません。ただこの時の事で憶えていることは、西に向かう飛行機でしたから、窓から見る景色の夕日がなかなか沈まない・・・。なんか不思議な光景でした。お酒も入り、ちょい寝もしたのでしょう。10時間、事なきをえて、SR167便はチューリッヒまでの途中経由地、やっとモスクワへの着陸態勢に入りました。
 飛行機のはるか下にあった雲海が徐々に近づき、その雲海に浮かぶ船のように飛行機は走り、そして潜水艦のように雲の中へ沈んでいく・・・。視野の狭い窓の外をずっと見つめる自分。厚い雲を掻き分けて出てきたとき、夕暮れの雨の中、広い草原の中の空港に着陸したのでした。
 もうここはホントの外国。ボーディングブリッジまで、シャーベット状のになったタキシングラインを飛行機は走ります。形の違う飛行機、形の違う車。すべてが見慣れない光景でした。

 ここで飛行機は1時間の休憩です。モスクワ行き以外の人の降機は何故か許されず、私たちは機内待機でした。空港の写真を撮りたかったのですが、当時、ソビエトは社会主義国家でしたから空港内の撮影は×。多分当時、その飛行機の小さい窓から見える景色を、飛行機を食い入るように見ていた自分がいたと思います。

 現地時間午後四時、もう日が暮れてあたりはもう深夜の雰囲気。誘導灯とスポットライトだけが浮かぶモスクワの空港を、飛行機は飛び立ちました。ここからチューリッヒまで3時間25分。この区間内でもしっかりとした食事が出てきました(笑)。日本を発ってから10時間強、私はおのぼりさんですから、機内でサービスされるものは、しっかりと召し上がっております。もう胃袋はフォワグラ状態のいい気分(笑)。お酒も手伝ってこの、フライトはあっという間でした。

 初めて降り立つヨーロッパの空港で、時間は午後6時ごろ。12月ですからあたりは雪、おまけに真っ暗け。空港は、出発ラッシュも済んでますから、人影もまばら。寂しいの一言でした。入国審査ゲートも人は居ず、間違ってると思いバゲッジルームから逆流する始末。乗ってきた飛行機のクルーに出口を教えてもらい、なんとかスイス入国。それからホテルバス探し・・・。ちっちゃなターミナルをウロチョロ、ウロチョロ。雪に包まれ、オレンジの街路灯が道を照らすのみで、何も分からない。日本時間ではもうすでに深夜。とっくに寝てるはずなのに、もう不安と興奮でお目めもパッチリ。何とかホテルバスを見つけに乗り込み、無事ホテルに到着。入った瞬間、まるで浦島太郎のようになったことを憶えています。
 ホテルは暖色系の色に包まれ、ゲストたちは明日の出発を楽しむかのように、サロンやダイニングで友とまた恋人、伴侶と語らい、飲み食事をし、和やかな雰囲気を作り上げている。その傍らで辞書や旅の会話帖を見ながら悪戦苦闘している自分・・・。明らかに場違い?!。テレビをつけても何も分からない言葉・・・。このとき、日本出国時の浮かれ気分はすでに消え、初めて自分の心の中に『やばい・・・』という気持ちが出てきました(遅いチューの!!)。

明日はいよいよ、ガーナに入国です。


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